令和元年度 介護職員研修「介護職員のための健康づくり研修」の報告

令和元年度の介護職員研修はかながわ介護予防・健康づくり運動指導のスペシャリスト 久野 秀隆先生をお招きして、10月18日(金)19時から、厚木市文化会館(集会室)で開催しました。各事業所から36名の参加者が集まり、自身の健康づくりや職場でも役に立つ体操について学びました。

岡島副会長よりごあいさつ

「先日の台風への対応などでお疲れの方も多いと思います。日頃はお仕事でハードに動きまわっていて、自分の体をケアする活動はなかなか出来ないと思います。本日は研修を通して体と心を元気にしていっていただきたいと思っています」とご挨拶がありました。

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介護職員の健康づくりと介護の現場でも使える体操を紹介

久野秀隆先生は地域(70市区町村)の「元気な高齢者の運動指導」をされており、神奈川県内では病院や介護施設のリハビリ職員や介護職員の研修などを担当され、厚木市では地域包括と連携して健康づくり教室や介護予防教室を行っていらっしゃいます。「今日はみなさんの体のケアが主になりますが、現場で使える体操についてお話したいと思います。」とご挨拶があり、研修が始まりました。

 

 

 

 

《1》首肩まわり、肩こり対策の体操

体操の前に背筋を伸ばし首を左右に回して、いちばん回したときに見えるものを覚えておきます。最初に後ろに手を組んで首をゆっくり左右に倒し首の側面の筋肉をのばしていきます。次に右斜め前、左斜め前と倒し首の後ろの筋肉を伸ばし、続けて頭を手で持って頭を斜め前(左右)にゆっくり倒します。最後に頭の後ろに手を置いて少し負荷をかけながら正面方向に頭を倒して、首の後ろと背中の筋肉を伸ばします。※それぞれ20秒以上かけてゆっくり無理のない範囲で行います。この後、首を左右に回すと体操の前より首が回るようになったことがわかると思います。

《2》脇モミモミ体操(腕まわり)

始めに両手を上に挙げたときに自分の手(左右)がどこまで上がっているか確認し、腕の重さの感覚も覚えておきます。右手で左脇の下から手を背中の方に回し、背中の端にあるお肉を揉んでほぐします。ここで左右の手を挙げて確認してみると、揉んだ方の手を軽く感じ、高く上がるようになった人もいました。次に左右を替えて反対側も行います。続けて「揉む」のに疲れてしまう人は「擦る」だけでも効果が出ます。この体操は肩こり対策と腰痛ケアになります。テレビを観ながらや入浴時、お仕事の休憩など、少し時間があればできるので試してみてください。

3》前腕と肩の外側をもみ合う体操(2人1組)

前腕が固くなると握力低下や腱鞘炎になりやすくなるので、予防に柔らかく保つことが大切です。2人で迎え合わせに座り、相手の前腕(肘から手首の間)を両手で持って揉んでいきます。親指の付け根の柔らかい部分を使ってパン生地をこねるように外側と内側の筋肉をやさしくほぐしていきます。続けて同じ腕の肩の外側にある三角筋も揉みます。1人目の左右両方が終わったら、交代して行います。肩を回したときに軽くなったことが感じられます。揉むのに疲れてしまう場合や、ヘルパーさんが高齢者に対して行う際には「擦る」だけでも十分効果が出ます。 麻痺のある人に対しては、脳からの電気の指令が滞っていることが原因に有るので劇的な変化はありませんが、首から腕にかけて(内側と外側を)擦ることで電気の伝達の練習になります。触られていることが筋肉を使うことと同じ感覚なので、症状の改善につながると考えられます。また、手が開きづらい麻痺のある方には前腕が柔らかくなると指を開きやすくなるので、自分で揉むことを毎日続けるように伝えましょう。

《4》背中シャキッと体操

高齢になると背中と腰が曲がってきます。これは作業するときに手を前に出すと肩甲骨が外に開いたまま固まってくることが原因です。また、農作業などで前かがみの姿勢が多くなり、背中が曲がると5kgの頭で前のめりになる分、腰を落とし、膝を曲げて重心を安定させます。歩くときには腰に手をやったり、杖が必要になります。姿勢を改善するには、「肩こり体操」と「腰痛体操」と「ダイエット」が必要になります。

最初に両手を前に出した状態から、肘を曲げて左右に手を引いて肩甲骨を寄せる体操をします。2人で行う場合は、肩甲骨の中心の背骨に指先をあててもらい、その手を挟むように肩甲骨を寄せるイメージがしやすいです(8〜10回ずつ行い、最後に背中を擦ってあげます)。※背中を手のひらで「いい子、いい子」するように擦ってあげると「幸せホルモン」が出て、気持ちが安定します。現場では認知症などで情緒が安定しない方にも有効です。

体操の間にミニレクチャー:「介護」や「寝たきり」になるきっかけ

介護や寝たきりになるきっかけで、1番多い理由は、脳梗塞や脳出血などの「脳血管障害」で、3人に1人がかかる時代です(ちなみにガンは2人に一人がなると言われているので、どちらもかなり多い割合)。2番目に多い理由は認知症で、転倒や骨折に比べても多くなっています。認知症は頭に血が流れにくいことが原因と考えられ、現在、日本人の500〜600万人が患者と言われています。1・2番目のどちらにも「血の循環を良くすること」が予防となるため、医者は「よく歩いてください」と指導されています。

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(休憩)

顔の痙攣(けいれん)について

「よく顔が痙攣する」という参加者の相談に対して:原因としては「目の疲れ」や「精神的なストレス」が考えられるが、一概には言えないので心配であれば一度受診されることをお勧めします。目のまわりのマッサージとしては眼球の下側の骨のあたりを3本の指でやさしくまわしてほぐしてあげると良いです。皮が薄いところなので、強くしたりやりすぎるのはやめてください。目の上は眉毛のあたりをほぐすと目が開きやすくなるので、マッサージの後は明るく感じると思います。

《5》おじぎ体操(腰痛対策)

腰痛の多い職業として、長距離とトラックの運転手がありますが、2番目に多いのは介護の現場職員です。全国にコンビニが6万店舗あるのに対して、整骨院(鍼灸院)は14万店舗あると言われています。調子が悪くなったときに相談しやすい先生を見つけておくことが役に立ちます。

背骨の両脇の筋肉を使い腰を柔らかくします。はじめに椅子に浅く腰掛け、背もたれに寄りかかっておへそを見るように背中を丸めます。次に顔を上げたまま(目線は前)上半身を前に倒します。背中を曲げるときに手を前方に出し、前に倒すときには手を後方に開くと効果的です。この後前の動きを10往復2セット行います。痛くない程度に無理をせず行ってください。

体操の効果は2〜3時間です。今、午後8時なので、寝る前にはもう固くなり始めています。家に帰ってもう一度やると効果を持続させることが出来ます。

《6》腰ひねり体操(腰痛対策)

座ったままゆっくり左右に腰をひねります。胸を横に向けるように痛みに注意して10往復2セット行ってください。高齢者のふらつき対策にもなります。

《7》膝を胸に引きつける体操(股関節)

はじめに座ったまま足踏みをして足の重さを感じておきます。両手で膝を抱える様にして足を胸に引きつけるようにします。できるひとは膝を舐められるくらいまで引き上げます。引くつけと緩めるのを何度か繰り返し、自分の足の上がる最大の高さを練習することで、普段使う範囲の動きを軽く感じられるようになります。関節のお手入れをすることで体の動きは軽くなります。

《8》足ワイパー体操(股関節)

座ったまま片足を前に出し膝を軽く曲げます。次に足の付根からひねるように外側と内側交互に倒します。10往復、左右の足で行います。動かしづらいところを感じながら苦手な動きを練習すると歩行を改善できます。

《9》ひざスリスリ体操(膝関節)

体操の前に座ったままひざに手を当てて曲げ伸ばしし、「パキパキ」「コツコツ」などの音がしないか確かめておきます(左右)。手のひらで膝のお皿を包み込んで擦ってあげると膝のお皿が少し動き、膝の内側で潤滑油が少し出ます。長めに擦っていると手の体温で膝が熱がゆっくり伝わり、皮膚から順番に筋肉や靭帯が温まって柔らかくなります。擦った方の膝は曲げ伸ばしが軽くなり膝の負担が減るため、変形性膝関節症の予防になります。左右60秒ずつ行います。

《10》ふくらはぎグリグリ体操(血流改善)

右と左のふくらはぎを触って硬さを確認し、足の色を覚えておきます。足を組むように片方の膝の上にふくらはぎを当てて、下の膝でふくらはぎをグリグリ揉むように、場所をずらしながらマッサージします。揉んでいる方の膝の下に両手を入れて足の重さを支えると行いやすいです。マッサージした方の足は柔らかくなり、色はと血流が改善されて白っぽくなります。左右20秒ずつ行います。

頭の体操(記憶のトレーニング)

3〜4人のグループで円をつくり座ります。みんなで足踏みをしながら順番に野菜か果物の名前(どちらでもよい)言います。他の人の言った答えは言うことが出来ません。4周して最後に自分の言った4つの野菜(果物)を思い出して答えます。※各グループ毎に行いました。

足踏みする・自分の言うことを考える・他の言うことを聞く、言ったことを覚える… など、やることがいっぱいあると何かがおろそかになります。同時に行うためは「注意分割」という機能が必要です。この機能は意識しないうちに衰えやすく、高齢者の運転事故などにつながります。また、記憶の種類には「短期記憶」と「長期記憶」があり、「短期記憶」も衰えやすく、少し前の食事を思い出せなくなったりします。今やったのは「コグニサイズ」という国立の機関がつくった認知症予防のプログラムで、現在は実証実験をしています。認知症は頭を使うことで予防することが出来ます。「短い記憶」や「同時にやる」ということを組み合わせて行うと有効なので、各事業所のレクリエーションなどで工夫してみてください。

職員同士でも背中を擦るなど、スキンシップを取るとストレスが減り、人間関係が改善されることが有るので、職場の中でも試してみてください。

健康づくり研修の最後に

以前は「ロコモ予防」と言っていましたが、現在は「衰弱を防ぐ」ということが主となり、その健康づくりについて一般的には「フレイル」と言われています。神奈川県では「未病」と言って、黒岩県知事の政策の中にも「認知症、未病対策」と入っています。行政では「栄養(管理栄養士)」「口腔(歯科衛生士)」「精神(社会参加をつくる)」を行っています。地域包括支援センターでは地域に集まれる場所をつくる活動をしています。「要介護になると社会参加が難しくなるので、事業所でも利用者さん同士で行う活動や職員と一緒に行う活動の中で工夫していくとそれぞれの特徴が出てくると思います。」と研修を締めくくられました。 ——————————————————————————————————————————————————

【閉会の挨拶 (篠原会長)】

本日は藤沢の主任ケアマネジャー研修に行っていたので、途中からの参加となり失礼しました。受講した研修で同じグループになった6名のうち3名が琵琶湖や横浜のマラソンに参加されている長距離ランナーだったことに驚き、運動することの大切さを感じてきました。今回の研修では日常で少しでも体を動かすという内容がすごく良いと思いました。みなさんも事業所に持ち帰ってご自身や職員さんの健康維持に役立ててください。また、体を柔らかく保つ内容などは利用者さんにもお伝えしたいと感じました。本日は久野先生ありがとうございました。 ——————————————————————————————————————————————————

【久野 秀隆(ひさの ひでたか)先生のプロフィール】

有限会社ビーアウェイク 代表取締役
介護予防トレーナー/まちづくり指導
◯介護予防運動指導員
◯かながわ介護予防・健康づくり運動指導員(上級)

《略歴》
1987年8月13日生まれ(出身:神奈川県) 10代はライフセーバーとして働く 18歳からフィットネスクラブ勤務(パーソナルトレーナー) 2012年より「フィットネスクラブにこない地域の方に会いにいく」という形で介護予防に転身 神奈川県を中心に70市区町村の元気なシニア世代の体操指導や、病院・介護保険事業所の 腰痛予防研修・機能訓練などの研修指導を担当 〈2019年9月までにのべ8,000件の教室を指導、年間6万人(のべ16万人)の指導を実施〉 現在は行政機関のアドバイザーなども務める

《出演メディア》※講演時
冠・帯番組「久野先生の健康体操 全力で元気にコミット」 (J:COM《10ch》 月〜金 6:00〜、8:15〜、13:00〜/土日 6:00〜) メレンゲの気持ち(日テレ)、大正製薬CM「リポビタンライフ」、DAIKENショールームCM 読売新聞(カラー特集)、女性自身(多数掲載)、東洋経済、介護ポストセブン など

《講演・講義・研修》
社会福祉法人(老人ホーム)など 約400ヶ所・病院やクリニック 約70ヶ所・地域包括支援センター 約290ヶ所 セーリングW杯2018(オリンピックテスト大会)決勝でセーリング体操制作(黒岩県知事と実施) 八王子市、厚木市、相模原市中央区、横浜市(DVD製作中)など「市の体操の制作」とボランティアの養成など

《著書》
「足裏ほぐし」出版社 主婦の友社
「ゴエン予防体操」出版社 SDP

有限会社ビーアウェイクのホームページ 
http://beawake.co.jp/