平成30年3月8日(木) 平成29年度管理者研修会 「平成30年度法改正の理解を深める」を開催しました。
篠原会長 開会のごあいさつ
この4月に介護保険制度の改正が行われます。今日はこの情報を自分たちの事業所で活用できるようにするための研修会です。
ぜひ、よく理解して各事業所にお持ち帰りいただけたらと思います。
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平成29年度管理者研修会「平成30年度法改正の理解を深める」
講師:公益社団法人かながわ福祉サービス振興会
理事長 瀬戸恒彦 様
私は神奈川県庁で介護保険制度の立ち上げをして、平成13年に退職後はかながわ福祉サービス振興会で仕事をしています。介護保険制度の創設から現在までこの制度の変遷をずっと見てきました。過去、現在、未来と制度が改正されてきて、これからどうなってゆくかという内容を説明し、その背景や理由についてポイントをお話ししたいと思います。
■制度改正の背景について
なぜ、制度改正が行われたかという背景については「単身の高齢者世帯が急増している」一方で、「働き手が不足している」という流れが有ります。毎年、要介護の認定者数が増加しており、県内では事業所の数が増えてきています。現在でも県内には事業拠点数は1万箇所(サービスごとで数えると3万箇所)有ります。全国でみると市場規模は現在の約10兆円から、2025年には21兆円にまで倍増することが予想されています。年金と医療と介護福祉という社会福祉予算が右肩上がりで増加しています。この原資は国民の税金や介護保険料によって賄われているのが現状です。
介護保険制度を取り巻く課題には以下の7つのポイントが有ります。
1)認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増大している。
2)少子高齢化の進展により、介護を必要とする者が増大する一方で、その支え手が減少している。
3)介護人財の確保が困難であり、事業所における処遇改善、育成の取り組みがあまり進んでいない。
4)介護現場における労働負担の軽減や生産性の向上への取り組みが遅れている。
5)要介護度の改善に資する自立支援サービスの提供が少ない。
6)「医療・介護の連携」、「地域共生社会の実現に向けた取組み」があまり進んでいない。
7)社会保障給付にかかる費用(税金・保険料)が増大している。
今回の制度改正はこの課題を解決するためのものです。認知症の方々を地域で支える地域包括ケアの仕組みが重要になります。介護の支え手が不足することの対策として介護ロボットの導入や労働生産性を上げていき、介護報酬を上げることで処遇の改善もしていくという方向です。介護報酬について今回の制度ではプラス改定となっています。また、医療介護の連携と地域共生社会の実現を目指す取り組みの中では、「共生型サービス」という新しい枠組みも4月から導入されます。ポイントとしては、質の高いサービスを提供している事業所には介護報酬を上げていくことになります。つまり、自立支援に向けて要介護度を改善するサービスを提供していくと報酬が多く入ってくるということです。この自立支援の評価については市町村の権限が大きくなります。これまでの制度では利用者の要介護度が上がると報酬が上がっていく仕組みだったが、これからは自立支援を頑張って「要介護度を改善している事業所」を市町村で評価し、そこに加算していくことになります。
医療と介護連携を推進するということでは、在宅だけでなく施設の中でも医療と介護の連携が図られていくことになります。また、医療に関しては「介護医療院」という、生活スペースの中で医療を適切に受けられる新しいタイプの施設が4月以降に設置されてきます。
その他、高齢者と障害者が同一の事業所でサービスを受けやすくする「共生型サービス」や、事務処理を効率化する「文書のICT化」や「居宅介護支援事業所の指定権限」が市町村に移譲されること、「福祉用具の貸与」に関して価格を全国で統一しゆくこと、利用者負担を所得に応じて変えていくことなどについて説明して頂きました。
続いて「介護報酬改定」についてその経緯とポイントについてのご説明がありました。
昨年12月に加藤厚生労働大臣・麻生財務大臣の合意があり、改定率が決定し、「医療」「高齢者」「障害者」の報酬がプラスになることになりました。前回のマイナス改定で、現場からの「運営状況がきびしい」という声を受けての内容となりました。
■制度改正の4つの柱
平成30年度介護報酬改定の基本的な考え方は以下の4つの柱があり、1〜3は報酬がプラスの方向で、4については、報酬を抑制するマイナスの方向(適正化・重点化するして公平に配分すること)となっています。
1)「地域包括ケアシステムの推進」
《ポイント》医療と介護の連携・ケアマネジメントの質向上・認知症への対応強化など
2)「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現」
《ポイント》リハビリテーションに関して医師の関与強化・リハビリや通所介護へのアウトカム評価など
3)「多様な人材の確保と生産性の向上」
《ポイント》生活援助の裾野を広げるための新しい研修制度・介護ロボットの活用・ITCの利用など
4)「介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保」
《ポイント》福祉用具貸与や集合住宅などの費用・通所介護サービスや通所リハビリの報酬見直しなど
※3月6日、厚生労働省で行った全国担当課長会議の資料がインターネットで見られるので、関心のある部分を読んでおくことをお勧めします。
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■改定内容の詳細について
要介護度の高い方に対する「訪問看護」や「認知症対応型」のグループホームには加算となる改正となっています。また、ケアマネジャーの負担がかかる看取りなどの介護は加算をつけ、従来のサービス担当者会議を医師の指導があれば開催しないでよいなど、省略化についても考慮されています。
これからは自立支援に向けたサービスを増やしてゆくという考え方から「リハビリテーション」を重要視して、要介護度を上げないサービスを提供し、効果があった事業所については評価していくという方向になります。専門職が関わらなければならない身体介護については報酬を上げてゆき、生活援助のように専門性が必要ないサービスについては、これから始まる研修で新たに担い手を養成してゆくという2つの流れになっていきます。外部のリハビリ専門職が計画をつくり、サービス提供者と連携して状態をチェックします。また、通所介護では「バーサルインデックス」を測定する環境づくりを行い、アウトカム評価に対応できるようにすることを早期に行っていくことが、良い事業所を証明する根拠として必要になってきます。
多様な人材確保については生活援助の担い手を新しい人材から養成し、「おまんじゅう型」の人材構成から「富士山型」に変えていかなければならない。それでも人材が不足するところにはロボットによる夜間の見守りやITCを活用した運営推進会議の簡便化などの規制緩和も行っていくことになっている。
報酬を抑制する部分については、集合住宅などの価格の適正化を行ったり、通所介護や通所リハビリについても利用時間を1時間単位で報酬を見直すことで、不公平感を無くしてゆくことが新制度の方向になっています。また、集合住宅や訪問回数が多い利用者についても抑制される方向で見直しとなります。
今後の事業運営については以下のポイントをチェックしてみるとよいでしょう。
1)収支のバランスをとる。
→加算を取って収入を増やす。
→無駄な支出を減らす。
2)人材育成に果敢に取り組む。
→中核となるサービス提供責任者を養成する。
3)自立支援サービスを充実させる。
→自立支援をしっかり理解し、充実した良いサービスを提供する。
4)生産性を上げるための創意工夫をする。
→無駄な支出を減らし、スタッフ個々の付加価値を高める。
5)地域社会に貢献する。
→地域の中で存在価値を高め、ナンバーワンになれば良い。
■「介護職の心構え」について
《働きがいを高める 「なぜ働くのか?」》
良い事業所では、働く人がいきいきと幸せを感じながら働いている。
働く人を犠牲にして、良いサービスを提供し続けることはできない。
どうしたら、働くことの幸せを感じられるのか。
《働くことの幸せ(喜び)とは》
1)お客様に喜んでいただける
2)働く仲間との連帯感がある
3)自分が仕事を通して成長していける
4)給与をもらえる
心の持ち方をプラスのスパイラルにもってゆくことが大事
ポジティブな前向きな気持を持ちネガティブな気持ちの時間を短くするトレーニングが必要になる。
《モチベーションを阻害する要因》
①「仕事は楽しいからやるものではなく、お金を稼ぐためにしかたなくやらなければならないもの」という仕事観。
②「自分の仕事の結果が、お客様や職場の人に喜んでもらえていない、地域社会に貢献していない」という無気力感。
③「仕事を適正・公平に評価してもらえていない」という不公平感。
④「職場の仲間が冷たい」という自分勝手な脱力感。
《働きがいを高くする職場づくり》
①個人の自律性が尊重された職場
②仕事が構造化され、規律正しい組織風土がある職場
③努力を適正に評価してくれる職場
→公平・公正な報酬の配分
④温かさを感じる職場 ※介護現場でなぜ退職者が多いか
最後に「介護職にとっての心構えや学ぶべきことなどについてもお話ししたかったのですが、
時間がなくなったので、資料を読んでください。」とお話を締めくくられました。
【質疑応答】
Q.アウトカムの評価についてはどのような内容になりますか?
A.実績で「バーサルインデックス」の評価に基づいて行われます。
Q.新しく行われる「生活援助」の地域によって、研修の時間がまちまちではないでしょうか?
A.いいえ、国(厚生労働省)では計59時間と明確に決められています。
●岡島副会長 閉会のごあいさつ
瀬戸先生には多くの重要な内容を短い時間にまとめていただきありがとうございました。2025年の超高齢化社会に対応するため、だいぶ以前から「地域包括ケア」と言われてきた中で、この平成30年の改正については「これまでの概念と大きく異なる改正になるだろう」という不安と、本来のニーズにあった形になればよいという希望も少し有りました。本日の瀬戸先生のお話を聴いて、もっと掘り下げて勉強しなければならないと感じた方も多いと思います。その意味で良いきっかけになったお話しだったと思いました。地域包括というのは大きな話ですが、まずはそれぞれの事業所の中のチームワークを高めたり、職場環境を良くすること、そして利用者さん中心のサービス提供を行っていくことなどをしていくことで結果がついてくるということを信じて、これからも皆さんと共に頑張っていけたらと思っています。本日はありがとうございました。
(レポート作成:藤原)
【資料PDF】以下よりダウンロードしてください。
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【講師プロフィール】 瀬戸 恒彦 氏
1979年神奈川県庁入庁。1993年から福祉部福祉政策課で高齢社会対策に関する各種調査、介護保険制度の立ち上げに従事。
2001年(社)かながわ福祉サービス振興会事務局長に就任。
2014年から理事長。現在、シルバーサービス振興連絡協議会会長、一般社団法人日本ユニットケア推進センター理事も務める。
《共 著》
『評価が変える介護サービス』法研2003、『介護経営白書』日本医療企画2006
『居宅介護支援・介護予防支援給付管理業務マニュアル』中央法規2007
『新・社会福祉士養成講座第11巻7章』中央法規2010
『介護保険事業所業務改善ハンドブック』中央法規2012
『介護事業の基礎力を鍛えるコンプライアンス経営』日本医療企画2014 など